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駅時刻表の安易なQRコード化に反対する

あなたがいまから乗ろうとしている路線,そしておそらく方向までも。べつにやましいことがなければ,鉄道会社やプロバイダ,そして警察くらいになら教えてもいいかもしれない──憲法の規定にのっとり,国民が不断の努力をもって権利を保っているかぎりにおいては

駅時刻表のQRコード化とは

駅時刻表のQRコード化。最近鉄道を利用する機会がない方なら,ご存知ないかもしれない。JRの駅に掲載されている時刻表が,ウェブサイトにアクセスするためのQRコードに置き換えられている。

理由はおそらく,貼りかえの手間をはぶくためだろう。CoVID-19の流行によって経済状況がかんばしくない昨今,とくに鉄道会社の受けた打撃ははなはだしいものだったにちがいない。

貼りかえの手間をはぶくのであれば,たしかにQRコード化することが適切にみえるかもしれない。なにしろ,いちど貼ってしまえば,ウェブサイトを改修するか,紙が黄ばんで読めなくなるまでとりかえる必要などないわけである。

ウェブサイトとはなんなのか

JRは公共性の高い機関だ。ウェブサイトのリンクが入ったQRコードに置き換えることが,公益にどういった影響をもたらすのかを考えなければならない。
インターネットを気軽に使えないのは,ほんとうにご高齢の方だけなのだろうか。

ふだんインターネットで情報を収集している方も多いだろう。インターネット上にはさまざまなウェブサイトがあふれており,求める情報をすぐに見つけることができる。

だが,ウェブサイトにアクセスすることは他人の日記帳をのぞきみるのとはわけがちがう。じつをいうと,こちらから自分の身元を明かしたうえで,見せてくださいとたのんでいるのだ。
図書館にたとえると,このようになる。あなたはみずからの住所と,読みたい本の題名をはがきに書いて図書館あてに郵送する。そうすると図書館が本を送ってくれる──これを目にもとまらぬ速さで,なんどもくりかえしているわけだ。

さきの例でいう住所にあたるものを,IPアドレスという。IPアドレスそれだけでは個人情報とむすびつくことはない。しかし,インターネットにつなぐために契約している接続事業者,すなわちプロバイダを特定できる。インターネット犯罪で犯人が特定されるのも,警察がプロバイダに問い合わせているからである。

身分証の提示要求にひとしい

すなわち,時刻表をQRコードにおきかえるということは,時刻表を見るときに身分証を見せてくれといっているようなものだ。

大都会の駅なら別として,地方の無人駅なら特定の時間帯に時刻表を見る人は限られてくる。しかも,他のサイトを経由せずに直接アクセスしたとなれば,QRコードからクセスした可能性が高い。携帯電話からのアクセスであればなおさらのこと,いま駅にいて電車に乗ろうとしているだろうと推測できる。

たとえTorやVPNを使っても

コンピュータにかんして知識のある方なら,Torなどの匿名化技術や,ログなし方針をもつVPNを使ったらいいのではないか,と思われるかもしれない。

こういった匿名化の手法は,技術的でない原因によってやぶられることがある。ようするに,不注意な行動をとればプライバシーがそこなわれる,というわけである。そして,駅からスマートフォンで時刻表にアクセスするというのは,たいへんな不注意。自分の名前と行き先を,大声でさけぶようなことである。

たとえば,私が最寄り駅(かりにN駅としておこう)のホームにかかげられたQRコードをスマートフォンに読み取らせ,携帯電話回線からTorをとおしてアクセスしたとしよう。

携帯電話会社が得る情報

JR,またはサーバー事業者が得る情報

すなわち,両者の持つ情報をつきあわせることによって個人を特定でき,現在地も,これからの行動も推測できるのだ。

ではどうすればいいのか

日本は民主的な国だから,監視されても安心かといえば,けっしてそうではない。たしかにいま,わが国は戦争もなく,目に見えるかたちでは圧政のきざしさえない。だが,それが意味するところは,われわれはとてつもない幸運にめぐまれているか,そうでなければだまされているということなのだ。

私は前者にかけたい。われわれはとても幸運だが,運はいつ尽きるかわからない

不自由なソフトウェアやGAFAのサービスをなんの疑問もなく導入する政府,小さな損得にしか関心がない国民──運の尽きがすぐそこに見えるのは,なにかのまちがいだろうか。

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。
──日本国憲法 第十二条より抜粋

いまわれわれはほんとうに,自由と権利を不断の努力によって保とうとしているのだろうか。これは私の個人的な見解だが,みな努力して保持するどころか,自由や権利を消費し使い捨てているようにみえる。
不断の努力がなければ,いずれ失われる。これが,憲法で保障された権利の限界である

時刻表のことだけをいえば,私は電子時刻表・乗換案内システムの構想を持っている。ダイヤグラムや時刻情報を,自由に利用可能な標準形式(文書ファイルでいうところの,ODFみたいなもの)に統一して配布するというものだ。そのデータを手もとのコンピュータに取り込めば,サーバーにいちいち行き先を報告しなくても,乗り換え情報を算出できる。