笠井闘志個人ウェブサイト

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ウェブサイトから収益を得ない理由

西洋紀元2024年4月12日

現在,私はこのウェブサイトから収益を得ていないし,将来にも得ようとはしていない。ここでは,その理由を説明したい。

広告⸻欲望をあおり,依存症ビジネスに加担する

インターネットでの情報発信から収益を得る方法としてよく知られているのは,ウェブサイトに広告を貼る,あるいは商品を紹介する対価として,広告事業者やその商品の販売者などから金銭を得るというものだ。

この方法にはいくつかの問題がある。ひとつめは,読み込まれる外部広告が利用者のプライバシーを脅かすこと。ウェブサイトに広告を貼るというのは,広告ちらしを壁に貼ることとは違う。広告事業者の事務所に通じるどこでもまど(藤子・F・不二雄氏による漫画作品ドラえもんに登場する道具)を置くことに近い。

読者のウェブブラウザは,ページに書かれた指示に従い,広告事業者のサーバーと通信する。広告事業者は,どのページを閲読しているか,読者がいかなる人物かということをふまえて,広告を表示している。

つぎに,広告は欲望をあおる。本来必要のない物品を欲しがらせるのだ。これは,家計の支出が増加する原因にもなるし,環境問題にもかかわってくる。

金は掘り尽くされた⸻レッドオーシャンと化した「稼ぐブログ」

ときは十九世紀の半ば。アメリカのカルフォルニアで金鉱が発見され,ゴールドをもとめてアメリカじゅう,はては海外から採掘者が集まった(2024,ウィキペディア)。採掘者が失った娘を哀しむ内容の楽曲いとしのクレメンタインを,一度は聞いたことがあるだろう。

しかし,金はわずか数年で掘り尽くされた。金は無尽蔵ではなかったのだ。

ウェブサイトでの収益も同じことだ。十五年か二十年ほどまえには,インターネットは無限の金鉱が眠る新天地にみえただろう⸻なにしろ,距離の制約をほとんど受けずに,情報だけを瞬く間にやりとりできるのだから。しかし,当然のことながらインターネットの金鉱も有限だった。

広告収入は,読者がウェブサイトに向ける時間や感心を商品にする。これらは有限だ。少くとも日本語話者に限れば,これ以上インターネットの利用者は増加しないだろう。一人ひとりが自由に使える時間も,持てる感心も限られている。つまり,人々の時間や感心を取り合うような状況である。この状態で新規参入しても,サーバーの賃借料を得ることすら難しいだろう。

なぜ有料記事を売らない?⸻インターネットでの記事販売の難しさ

情報を得たり,作品を享受したりするために金銭を払うというのは,なんら問題のあることではないと思っている。実際,私は本を買い,雑誌を購読し,博物館や美術館にも行き,映画館で映画を観ている。

同じように,私は対価を得て記事を提供することも問題はないと思うし,実際にそうしようと考えたことはある。しかし,そのためのシステムを構築し運用することは非常に難しいため,あきらめたのである。

サーバーから送られるHTMLファイルの正体は,零と一を並べたものであり,紙の本のような物理的実体はない。サーバーから送り出されたHTMLファイルは,電気の断続,光の明滅,電波の周波数や位相のわずかな変化などに形を変えてあちこちをかけめぐり,しまいには液晶分子の配列となる⸻ことが多い。情報というのは,つかみどころがなく扱いが難しいものである。

それに,現状では記事を読む⸻画面上に表示するか,音声合成ソフトウェアに読み上げさせるか,点字エンジンに点訳させて点字ディスプレイに表示するか,あるいはその他の方法によって表す⸻権利,あるいは可能性と呼ぶべきものを,紙の本のようには自由に売り買いできない。

インターネットを介して取引するさい,問題となるのは送金の手段である。

当然ながら,現金をLANケーブルや光ファイバーを通して送ることはできない。このため,多くの場合クレジットカード網やオンライン決済システムが利用されている。

しかしながら,こういった決済手段を用いるさい,読者が決済事業者に対して自らの個人情報を明かし,機器上で不自由なソフトウェアを動作させなければならない。このため,クレジットカード網やオンライン決済システムは使いたくないのである。

現金書留や銀行振込を使うとしたら,こちらが自らの住所あるいは口座番号を明かさなければならなくなる。私書箱があれば住所を明かさずに済むが⸻おおむね毎日、郵便物などの配達を受ける(発行年不明,日本郵便株式会社)者でなければ私書箱を使うことができないのだ。

また,料金を払った者だけに記事を読ませる仕組みをつくることも,かなり難しいことだ。当該記事にのみ有効なパスワードを発行するということも考えたが,どうやってそのパスワードを伝えるのかという問題がある。

金銭は,人が費やした手間の対価として払われるものだ(田内,2021)といわれる。有料で記事を閲読させる仕組みを構築するとなると,金銭や閲読権の管理のほうが,記事の執筆より手間がかかりそうだ。払った金銭のうち,記事に係る割合はわずかで,大半を占めるのは金銭そのもののやりとりに係っている⸻という状況になったとしたら,なんだかブラックジョークのように聞こえる。

そもそもインターネットは,金銭のやりとりには向いていない。無理矢理に金銭をやりとりしようとすると,防犯セキュリティや個人情報や対応機器の問題が生じるのだ。

ネットでは稼がなくてもいいし,稼ぐならネットでなくてもいい

世界には無数のウェブサイトが存在する。ウェブサイトを運営される目的は,直接収益を得ることだけではない。商業目的に限っても,インターネット外で提供される財や役務(万年筆や旅客運送など)の注文を受けたり,自身の提供する商品に関する情報を開示したり,従業員を募集したりといった目的で運営されることもある。

インターネットの登場から二十年以上過ぎたこんにちでも,仕事はインターネット上でなされるものばかりではない。物資を配送したり,電気配線を接続したり,現場を訪れて調査したりといった,インターネットの外でなされる仕事のほうが,われわれの生活にとって重要なのである。私もいくつかアルバイトを経験したが,どれも業務連絡以外でインターネットを使わないものだった。

街を歩けば,いたるところに求人広告の紙が貼られている。事情があって⸻家から出られないとか,世界中を旅してまわりたいとか⸻インターネットの外に職を求めることができないのなら話は別だが,求職先をインターネットの中に限る必要はないだろう。

インターネットは,社会の諸活動⸻政治,経済,学問,芸術,宗教など⸻を補佐する便利な通信網として使われるならよいが,社会そのものがインターネット中心になってはならない。

金銭を得ることをウェブサイトの目的としていない

自分の得意なことや感心のあることをすべて営利事業ビジネスにむすびつけるべき,あるいは,なにかをするのなら必ずそこから金銭を得るべきだという考えには賛同できない。

このウェブサイトは,個人的な趣味として,私見や作品を発表する場として,また文章力やウェブ技術力の訓練として運営している。

参考文献