笠井闘志個人ウェブサイト

情報技術における自由とプライバシーの保護

メッセージのやりとり

遠隔地にいる友人や知人と連絡をとりあったり,グループ内で情報を共有したりするさいに,インターネットはきわめて有用である。

現在,インターネット上でメッセージをやりとりする手段はいくつもある。私が実際に使ったことのあるものを比較する。

表による比較

この表には番外編として,インターネットを介さない方法(郵便,SMS,ファクシミリ)も載せている。なお,「料金」欄に関しては,インターネット通信料金を考えないものとする。

手段 自由・オープン 日本国内での普及率 簡便さ メッセージ内容の保護 スマートフォン不要 料金
電子メール RFC標準。仕様が公開されており自由に利用できる。誰でもサーバーを建てたり,クライアントソフトを開発できたりする。 インターネットが普及しはじめたころからあり,機械処理による自動送信も可能なため広く普及している。ただし現在は,サービスの申込時などにおける自動送信や,商務上のやりとりに利用されることが多い(仕組みが公開され自由に利用できるからこそ,自動送信などが簡単にできる)。SNSや不自由プロプライエタリメッセージングアプリの蔓延もあり,個人間の私的な意思疎通にはあまり利用されていないと思われる。 メールサーバ選び,アカウント取得やクライアントの設定がいささか面倒だが,一度取得し設定を終えてしまえば,送受信は簡単。ISPや携帯電話会社からメールアカウントが発行されることもあり,その場合はISP等から渡された説明書に従って設定すればよい。近年では対策が進み,スパムメールも減少している。 GnuPGなどで暗号化しなければ,通信経路上では丸見え。暗号化したとしても,「誰が,いつ,誰に,どんな件名のメールを」送ったのか(メタデータ)は丸見えなので注意。通常の私人間のやりとりでは問題になることは少ないと思うが,注意が必要。 アカウント取得から実際の運用まで,一切スマートフォンは不要。 使っているメールサーバによる。近年ではプロバイダメール,携帯電話会社のキャリアメール,独自ドメイン,フリーメール等ほとんど送受信ともに無料のことが多い。
XMPP 仕様が公開されており自由に利用できる。誰でもサーバーを建てたり,クライアントソフトを開発できたりする。 かつては普及していたそうだが,現在はほとんど普及していない。 設定自体は簡単だが,実際の運用にあたっては技術的知識が必要。クライアントごとに対応している機能が違うため通話機能ができなかったりする。 OMEMOやOTRなどにより暗号化が可能だが,メタデータについては通信経路上で丸見えと思われる。 アカウント取得から実際の運用まで,一切スマートフォンは不要。 使っているサーバによる。無料のことが多い。
Signal クライアントは自由ソフトウェア。仕様自体は公開されており自由に利用できるが,Signal Foundationのサーバに一極集中しており,他サーバと通信できない。 近年徐々に普及しはじめていると思われる。ただし近年は秘匿性と簡便性ゆえ犯罪グループに悪用され,人聞きの悪い使い方がよく聞かれる。ただし,Signal自体は犯罪と無関係であるので安心してご利用いただきたい。 アカウント登録は非常に簡単。ただし,機種やクライアントによっては電話番号認証に手間取ったり,CAPCHA認証を求められたりすることがありいささか面倒。操作やユーザーインターフェイスはWhatsAppに似ている。 エンド・ツー・エンド暗号化が施されている。送信者情報も,通信経路上で秘匿できるそうである 技術的にはスマートフォンなしでも,パソコンとSMS受信可能な電話があれば登録できそうではある。しかしいまのところ,スマートフォンのプリからでしか登録できない。アプリから登録したあとパソコン版(GNU/Linux,MacOSおよびWindowsに対応)に連携すれば,あとはスマートフォンは電源を切って物置にしまい込んでいても大丈夫。パソコン版から送受信できる。
訂正:長期間スマートフォンでSignalアプリを開かないと,パソコン版で接続していてもアカウントが無効になり利用できなくなるそうである。アカウントを維持するために,定期的にスマートフォンでアプリを開いておく必要がある。
無料。
LINE 不自由プロプライエタリで一極集中型。 恐ろしいまでの普及率。いまや事実上の標準と化している。 アカウント登録にメールアドレスやパスワードが必要だったり,電話番号認証を求められたりと新規登録は面倒である。機器が故障したときには再設定に手間取ったり,最悪の場合アカウントを復旧できなくなるときがある。しかし,一度登録してしまえば連絡先追加,メッセージのやりとりは簡単である。広告やVOOMなど目障りなものはLIMEで一掃できる。利用者を一意に識別できる手段がなく,表示名を本名にしていない人も多いのでなりすましや人違いに注意。 一応エンド・ツー・エンド暗号化が施されているそうではあるが,ソースコードが秘匿されているのでなんともいえない。メッセージ内容が盗み見られていることも十分考えられる 登録にはスマートフォンが必要(AndroidエミュレータやAndroidX86でもできるかもしれないが未検証)。パソコン版との連携はQRコードではなく,メールアドレストパスワードを使って行えば,次回からはスマートフォン不要でログインできる。連携するさいにはスマートフォンで認証する必要がある。パソコン版(MacOSおよびWindowsのみに対応)ももちろん不自由プロプライエタリ。Wineではうまく動かないので,GNU/Linuxをお使いのかたはChrome拡張機能版を推奨する(Chromium系ブラウザなら動作する)。 無料。広告収入やスタンプ,関連サービスで儲けているらしい。
郵便 郵便という概念,仕組み自体は自由である。しかし,一般的に「郵便を実行」(つまり郵便制度を運営)するには大規模な資本が必要だったり,政府の認可を受けなければならなかったりする。特定の国・地域において,特定の郵便事業者に事業の独占が認められていることが多い。 全国どこでも届く。 送り先の住所と名前を書き,切手を貼るだけなので簡単。葉書や郵便書簡なら切手を貼る必要もない。 日本郵便は個人情報を保護してくれるそうである。ただし,葉書だと配達人や,送り先の家族・同居人に丸見え。重要な情報は封書にして──封筒も透けにくいものを選び,封蝋などで開封を判別できるようにする必要がある。 スマートフォンは一切不要。 指定の料金がかかる。2024年に値上げされた。
SMS 標準規格であり仕様も公開されていると思われるが,携帯電話会社を設立し運営するには大規模な資本が必要で,さらに現地当局の規制を受ける。自由な携帯電話端末のソフトウェアを開発するプロジェクト(Replicant)はあるが,市販されている携帯電話端末はほとんどソフトウェアが不自由プロプライエタリである。なお,XMPP経由でSMSを送受信できるJMPというサービスもある。 わが国ではほとんどの携帯電話がSMSを送受信できる。ただし,通信料金がかかることもあり日常的に利用している人は少ない。 機種にもよるが操作は簡単。ただし,機器やソフトウェアの不調で届かないこともある。 送り先や内容などは経路上で丸見えである。 スマートフォンでなくてもよいが,携帯電話が必要(JMPなどを利用する場合はこの限りでない)。 携帯電話会社にもよるが,指定の料金がかかる。一通あたりの料金は決して高くはないが,何回もやりとりするとなると……
ファクシミリ 仕様は公開されており自由に利用できると思われる。 役所や企業などを除き,ファクシミリを設置しているところは少ない。 機種にもよるが操作は簡単。 電話回線を使うため盗聴されるおそれがある。 ファクシミリ対応の固定電話機が必要。スマートフォンは不要(というよりスマートフォンでは使えない)。 電話回線を使うため電話代がかかる。

実際の運用にあたって

電子メール

サーバ選び・アカウント作成

無料のものであれば,free.や,私のウェブサイトの「自由ITサービス一覧」に一覧されている。

有料であれば,ドイツのMailbox.orgがある。そのほか,国内ではウェブサイトのホスティングサービスがメールサービスも運営している場合がある。

インターネット・サービス・プロバイダや携帯電話会社からメールアドレスが割り当てられていることもある。また,スマートフォンの購入・初期設定時にGoogleまたはAppleに口座アカウント開設を半ば強制され,このときにGoogle(Gmail)またはApple(iCloud)のメールアドレスが割り当てられる。

POP,IMAP,SMTP(メールソフトからの送受信)が利用できるものを選ぶことをおすすめする。GnuPGなどを利用したり,メールを振り分けたりしやすい。また,インターネット接続がなくても,すでに受信したメールを読むことができる。なお,各携帯電話会社のメールサービスのほか,GmailやiCloudメールもメールソフトから送受信できる。

さまざまな企業,サービスからのお知らせメールが大量に溜まり,重要な連絡が埋もれてしまうことがある。これを防ぐために,私は,「個人的な連絡のためのアドレス」と「企業・サービスに登録するためのアドレス」を分けている。後述するエイリアスサービスも便利である。

GnuPG

公開鍵暗号を使って通信文を暗号化する仕組み。自由ソフトウェア。

利用方法について,詳細は下記参照。

Delta Chat

メッセージアプリやSMSのようなチャット形式の画面表示が好みなら,Delta Chatというクライアントソフトもある。

普通のメールソフトでは,メールが一通ごとに表示されているから過去の会話をさかのぼりにくい──とくに短い文でやりとりするとなるとなおさら面倒,ということもあるだろう。たとえば「今日長野駅で会わない?」と送り,「OK!」と返ってきたとしても,直前のやりとりがわからなければ,なにがOKなのかわからない。そして,一般的なメールソフトでは直前のやりとりをたどるのが面倒である。

電子メールの仕組みは公開され,自由に利用できる。メールソフトも自由に開発できる──メッセージアプリのような画面表示を採用したメールソフトも存在する。これが,Delta Chatである。

公式ウェブサイトは英語だが,日本語での使い方や解説もある。

Delta Chatはメールソフトなので,(SMTP,POP,IMAPが使えれば)既存のメールアカウント(メールアドレス)で使うこともできる。もちろん,相手がDelta Chatを使っていなくても問題なくやりとりできる。

これからDelta Chatを使おうとする方は,Delta Chat用のメールアドレスを取得することもできる。

エイリアスサービス

複数のエイリアスを作成でき,そのエイリアスに届いたメールをすべてメインのメールアドレスに転送してくれるサービスがある。個人情報保護やスパム対策に役立つ。主なサービスはつぎのとおり。

XMPP

サーバ選び・アカウント作成

私のウェブサイトの「自由ITサービス一覧」に一覧しているもののほか,XMPP.JPなどがある。また,自由ソフトウェア財団の賛助会員になると,XMPPが使えるそうである(私は先にDisrootに登録してしまったので,使っていない。ただし,メインのXMPPアカウントを自由ソフトウェア財団のものに移行しようかと思っている)。

クライアント

GNU/Linuxの場合,音声通話を利用するならDinoを,そうでなければPsiを推奨する。AndroidであればConversationsがおすすめ。

Signal

標準のSignalアプリは,端末内に保存されたデータの保護に懸念があったり,地図やプッシュ通知にGoogle関係のAPIを使ったりしているそうである。個人情報保護をそこまで気にしないなら標準のまま使って問題ないだろうが,もし気になるなら,Signal FOSSMollyなどのフォークがある(いずれもAndroidのみ対応)。こうやってフォークをつくれるところが,自由ソフトウェアの恩恵である。

Signalにはパソコン版もある。パソコン版に関しては,Signal FOSSやMollyのようなフォークは知らない。

LINE

LINEは不自由プロプライエタリ,かつ一極集中型である。わが国ではあまりにも広まりすぎており,誰かと連絡先を交換するときに真っ先に提案されるのがこのLINEである。また,なんらかの活動において連絡網としてLINEのグループチャット機能が使われることが非常に多い。

私は,連絡網として必要なグループチャットに限って利用している。それ以外の個人的な連絡には利用しない。

LIME

Androidを利用している場合,XposedモジュールLIMEや,そのフォークLIMEs(いずれもRoot化不要)を導入すれば,広告やVOOMなどを非表示にしたり,既読をつけないで読んだりすることができる。

Chrome拡張機能

MacOS版とWindows版以外にも,Chrome拡張機能版のクライアントもある。Chromium系ブラウザであれば,必ずしもGoogle Chromeでなくてもよい。OSがMacOSやWindowsである必要もない。

Windows版をWineで使ってみたが,動作が著しく不安定である。GNU/LinuxではChromeum系ブラウザを導入し,拡張機能版を使うと安定して動作する。

広告も表示されず不必要な機能もなく,動作も安定しているので拡張機能版はストレスなく使える。拡張機能版があるうちはLINEを使ってもいいかな,とは思えるが──不自由プロプライエタリかつ一極集中型なので,いつ何時拡張機能版が使えなくなるかわからない。


免責事項

この記事で紹介したソフトウェアやツールを利用した結果については,いっさい責任を負うことができません。亡命や取材など,きわめて高い信頼性を必要とする場合には,ご自身で調査することを強く推奨します。

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